8 戦場は荒野
今回は、非常に地味ながらも、実はここまでの回でのドラマ上の細かい振り、フラグを大きく回収している序盤の最重要回だ(ひょっとしたらそのようにガンダムを見る人はあまりいないかもしれないが......)。
ここまでガンダムでは「様々な立場の人間がいる」こと、そしてそららの立場が、その立場ゆえに対立することを描いてきた。連邦-ジオン、軍人-民間人、若者-大人、男-女。基本的には立場が対立すれば利害も対立し考えも対立する。が、ここでそうした対立が「停戦」という条件のもとで止揚される。
停戦とは作戦の継続である
今すぐ地球に地上に降ろしてほしいという民間人の要望を叶えるため、ブライトがジオンに一時停戦を申し込み、ジオンもこれを受け入れる。しかし、この「停戦」とは「作戦の継続」、形を変えた戦争でしかないことがまずは描かれる。
連邦からすれば民間人の輸送機の中にガンダムを隠し伏兵させる作戦の一部でしかないし、ジオンにしてみれば今のうちに陸上兵器を運び込む時間稼ぎでしかない。それが「停戦」の実態だ。「停戦」中も決して停戦しないのが戦争なのである。
戦争は敵と味方に分かれた究極の利害相反である。が、その利害が相反するゆえに一時的に利害の一致が生まれてしまうことだってありうる。それが今回の停戦で、つまりこれは利害の根本的な不一致を背景にした表面的な利害の一致だ。
バロムとペルシア
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そしてこの停戦と対照的なものとして、バロムとペルシアの交流が描かれる。
バロムはジオン軍の兵士、ペルシアは連邦の民間人だ。ペルシアは夫が育ったセント・アンジェの土地でどうしても息子を育てたいと言い、今回の停戦のきっかけになった未亡人であり、バロムはペルシアを運ぶ輸送船を監視する役目を背負ったジオンのパトロール部隊だ。バロム=ジオン/軍人/戦争で人を殺す男であり、ペルシア=連邦/民間人/戦争で夫を殺された女だ。完全に立場が真逆である。
そしてそんな真逆の立場の、相互に利害が完全に反しているはずのバロムがペルシアを心配し、輸送機が着陸した箇所まで引き返し、救援物資を届ける。
バロム:もういいだろう ちょっと寄り道をするぞ
コム:あの親子が気になるんでしょう 怒られますよ
バロム:ガルマ大佐はまだお若い / 俺たちみたいな者の気持ちは分からんよ
「俺たちみたいな者」とは何か。たとえばバロムの妹も戦争未亡人だったりするかもしれないし、バロムも戦争孤児だった=母親が戦争未亡人だったりするかもしれない。想像が働く部分だが、「俺たちみたいな者の気持ち」がガルマ大佐にはわからないから問題ないだろう、気づかれないだろうというのは、すごい皮肉だ。
ペルシア親子を気にして戻ってきたせいで、伏兵のガンダムを発見してしまい、逆にガンダム=アムロから狙撃され墜落するバロムたち。なんとか湖に不時着するのだが、ここで、ペルシアはバロムの傷の手当てをする。
バロムはペルシアに何のメリットもないのに救援物資を提供し、ペルシアは夫の仇であるはずのジオン軍の兵士であるバロムの傷の手当てをする。戦争という「表面的な利害の不一致を背景とした根源的な利害の一致だ。
人と人は様々な立場の違いから対立する。わかりあえない。争う。殺し合う。他方で、人と人はどれだけ立場が違っても、愛するものの大切さ、それを亡くす悲しみを知っている。その点でわかりあえる。
ペルシアは言う。
ペルシア:どちらが勝っても負けても私のように夫を亡くす人はこれからも大勢出るんでしょ?
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この発言の後に、ガンダムが大活躍するバトルシーンが描かれる。巨大ロボットのバトルは見てるだけならただただカッコいい。アムロというヒーローは「みんなの命を守るため」に命をかけて戦っている英雄だ。けれども今、あなたたち視聴者が興奮しながらワクワクしながらご覧になっているガンダム、そしてアムロの活躍とは要するに新たな未亡人の大量生産現場なのである。
敵に背を向け逃げ惑うザクをビームサーベルで背後から一刀両断するアムロ=ガンダムがかっこよければかっこいいほど、バロムのセリフが、ペルシアのセリフが視聴者に突き刺さる。
バロム:ガルマ大佐はまだお若い / 俺たちみたいな者の気持ちは分からんよ
ペルシア:どちらが勝っても負けても私のように夫を亡くす人はこれからも大勢出るんでしょ?
ガンダムをただかっこいいだけの単なるエンタメとして消費するだけの連中は、だから、ただ「生まれ」や「育ち」がいいだけの「ガルマ大佐」と変わらない。「俺たちみたいな者」ではないのである。
無能なガルマは今回も前回以上にまして無能
だから、そのガルマの無能を「これでもか」と描くことが、単なる人物描写を超えたドラマ説得力を高める必然性を持っている。今回のガルマもいつも通りものの見事に無能である。
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まず、相手の作戦や狙いをまったく理解できていない。
シャア:ガルマ 木馬がなぜあんな飛び方をしていると思う?
ガルマ:我々のレーダーから逃れるためだろう
シャア:違うな ミノフスキースクリーンの上に 地形を利用した強力な妨害網を引くつもりだ。 こうだな...となればミノフスキー粒子の効果は絶大だ
ガルマ:強力な誘導兵器も使わせんということか
シャアは「私が相手ならそうする」と常に相手の視点に立って発想、思考する。だからホワイトベースが低空飛行する意味も、停戦を申し入れる理由も思いつくのだが、ガルマにはそれがまったくできない。
自分で判断ができない
連邦軍の一時停戦の申し入れについて「どう思う?」とシャアに意見を求め、シャアの言う通りに作戦を決定。自分で判断をしていないし、一生懸命考えることをしない。自分で考えず、常に誰かに答えを聞いてばかりだから、いつまでたっても成長しない。確かに無能だし情けないが経験から少しずつ学び成長するブライトとガルマとの差はここにある。
今何をなすべきかではなく不安で頭がいっぱい
ガルマ:このような失態を姉上になんと言って報告したらいいのか
シャア:挽回するチャンスはまだある それに我々指揮官は最前線で士気を鼓舞しなければな 次は私も行かせてもらおう
ガルマ:た...頼む
みなが命をかけて戦い、結果、仲間が殺されている中で、ガルマが考えるのが「お姉ちゃんに叱られる」である。自分のことしか頭にないんか。
「俺たちみたいな者」の気持ちがわからない
シャア:これで勝てねば貴様は無能だ
それくらい圧倒的に有利な状況だが、それなのにガルマは敗北する。では今回のガルマの敗因は何かと、「俺たちみたいな者の気持ち」が分からなかったこと。実はこれに尽きる。
ガンダムに狙撃されたバロムたちパトロール部隊からの通信が途絶えた時点で、そちらに気を回していれば伏兵にも早く気づいたはずなのだ。
ビッグ・ジョンからの通信が止まりました!
この報告に対しシャアは「どういうことだ?」とリアクションしているのに、ガルマは
パトロールは放っておけ
ここで放っておかなければ、むしろ異変を感じ取っていれば、伏兵に気づいたはず。もし「俺たちみたいな者」の気持ちがわかっていれば、兵士の行動やその帰結に思いをめぐらすこともできたはずなのだ。
バロムは去り際、ペルシアの息子にこう声をかける。「ぼうず 強い男になって母さんを守ってやれよ!」。
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「俺たちみたいな者」の気持ちもわかるバロムのような「強い男」になるか。それとも自分のことしか自分の視点からしか物を見ることができず【だから】結果敗北する「貴様は無能だ」ーーガルマ・ザビになるか。視聴者には「アニメをどう見るか」がつきつけられている。
その他の気になる箇所
フラゥ・ボウがやたらすぐ接触する問題
https://gyazo.com/d1bf198db58eaa6e7fb2911acb9a7588
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またその接触の仕方が.....。自分から抱きつきにいってるような感じになってる。
カイのバトルシーン
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軟弱者を自称し常に冷笑しているカイだが、ここぞという時は命をかけて戦うし、実質、最もアムロの支援になってるホワイトベースクルーだったりする。
そしてそのカイは戦いながらも、素直に泣いたり、恐怖を隠さない。「普通はこう」という描写になっていて、これと対照的にアムロがいかに才能があるかという描写になっている。
アムロの出自問題
ペルシア:どんなことがあってもこの子を大地で育ててみたいんです こんな気持ち あなたには分からないでしょうね?
アムロ:地球には住んだことはありませんから
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アムロは地球生まれのアースノイドだと思っていたが違うのか?
ここで「アースノイド」「スペースノイド」という区別がいかに恣意的で適当なものなのかがわかる。確かに生まれは地球かもしれない。けれどもその後すぐに宇宙で育ったものは、ではアースノイドなのかスペースノイドなのか。そうしたマージナルな存在としてアムロが描かれている。
リードの役職問題
細かいことなんだけど、前回はリードを「リード中尉」と呼んでいたはず。今回は「リード大尉」。